ここで、一応の区切りにしようかとも思ったのだが、 その後の話も少しあるので、その辺りを書いておく事にする。
この中一の最後は、 あたかもドラマのような展開になった事を書いた訳だが、 往々にして、綺麗なものとは、ある瞬間の一場面を指すものだ。 その後を知れば、そのメッキもボロボロと剥がれて 本来の姿をさらけ出すことになる。
あの事件以来、 ホウキンが行われる事は、ほぼなくなっていたのだが、 期末テストも終わり、後は終業式を待つばかりとなった頃、 「俺に怪我をさせた」という事で、 それを口実に、UとYが最後のホウキンを行なおうとした。 これは大怪我という分けではなく、ほんの掠り傷程度だったので UとYは単純に、「最後だからホウキンを一発やっとこうか?」という事だったのだろう。
この時、 誰が最後のホウキンの生贄に選ばれたのかというと、 音楽室でYに俺の事を 「コイツ蹴ってもいいよ」と言った、あの男だった。
UとYが懐かしい感触を味わうかの如く襲い掛かる。 いつもの様に、そいつを押さえつけようとしたが、これが驚くほど抵抗していた。 俺も見ていて驚いたのだが、二人を跳ね飛ばす位だったから、 見かけによらず、相当腕力に優れていたのだろう。
そしてこの男から 「これ以上やったら、ただじゃおかねぇ」という、ただならぬ雰囲気が感じられた。 今にも殴りかからん位にね。
今までホウキンをされる人間が見せることの無かった、その威圧感に 流石にUとYはホウキンを諦めていた。
この出来事は興味深い。 これ程抵抗すれば、あの「ホウキン」は免れる事が出来たという事だ。 (もっともこの男は、それまでに手足をもがれるいじめを一切受けていなかったから、 このような強い態度で立ち向かえたのだろうが。) そしてUとYは思っていた程ではないという事も。 それと、この男の心に刻まれた。 「自分もホウキンのターゲットにされた」という、一生消える事のない傷と。
この男は、俺の椅子の背もたれをYと一緒に蹴っていたし、 ホウキンされている時も、よく覗きに来ていた。 この時点まで 「他人の痛さ」を感じる事が出来ていない事は確かだろうから、 そのまま生きられるより、 自分が面白がって見ていた、 「ホウキンという、人の心を殺す行為」を経験した事で 物事を考える、良いきっかけになった事を切に望むよ。